OHMにみる出版業界の問題点と新たな取り組み

 今回のオーバーヒートミーティングで大きく変わったものが2つある。1つは前回紹介したとおり、コーンズがスポンサーを降りたことだ。もう1つが、実質的な主催者の変更である。私の記憶が正しければ、前回まではイベント企画会社に丸投げ状態だったのだが、今回からネコパブの「イベント・影像事業本部」という部門が仕切りだした。そのため大変忙しくなったのか、ブログが6月25日以降当日まで1ヶ月近く更新されないなど運営上の混乱もみられた。しかし結論から言うと、この変化は出版社が出版以外で新たな金儲けのネタを作ったという点で画期的な取り組みだと思うし、個人的には大変期待している。事情があって今回だけの特別な対応だったら、がっくりきてしまうのだが。
 以下はもう、車とは全く関係ない話になるので、時間のある人・興味のある人だけ読んでください。






 皆さんもご存じの通り、現在の出版業界は大変だ。休刊に次ぐ休刊、倒産に次ぐ倒産が頻発している。発行部数公称30万部で休刊する雑誌もある。5万部で休刊なんてざらだ。それに加えて、売り上げは毎年減少し続けているにもかかわらず出版部数は伸び続けるという異常な状況にもあり、業界全体で破綻する可能性さえ否定できない(ちと複雑な事情があるので理由は省略)。放送も含めた既存メディアに枠を広げても状況は深刻だ。こんな状況でなぜ自動車雑誌社が持ちこたえていられるのか非常に不思議である。公的資金でも注入されているんじゃないだろうか(嘘)。趣味の車を絶滅危惧種だと見立てた場合、滅び行く者(出版社)が滅び行く物(趣味の車)を取り上げ、「う〜ん、この車は楽しい」等と記事にして生活の糧を得ようとする様は自殺行為に近いとさえ感じる。いや逆に、滅び行く者であるからこそ、滅び行く物に目を向けることができるのかもしれない。このニッチ戦略が出版不況の中を生き延びる術なのか・・・
 このような観念論はともかく、自省を込める意味でも出版業界衰退のカラクリに興味をもっている。なお趣味の車が絶滅危惧種になったのは、今までの方法論の妥当性が低かったことが原因であると考える。当HPとしてはその点を修正する上で一助となるべく情報発信と実践で努めていく。

 不振の最大の原因はネット(電子媒体)の普及であることは言うまでもない。情報伝達のスピード・量・価格・罵詈雑言に満ちあふれているとしても記者ではなく当事者が直接情報を発信ができるようになった時点で、特別な事例を除いて出版業界の敗北は決定的だった。特別な事例とは、高い信憑性が必要な情報・特定の報道機関しか入手できない情報・プロにしかできないカネのかかった情報発信(例えば宇宙で取材するとか、張り込みを続けたスクープ)等である。

 私が興味を持つ点は、この苦境への対応方法である。一部(というか多く?)の出版会社は、身勝手ともいえる屁理屈をこねて沈みゆく船にしがみつくかのような対応方法をとっている。しかしネコパブは違うようだ。だからこそ期待している。
 まず出版業界で一般的に蔓延している1つの考え方や主張の概要を紹介しよう。それは、

 1.電子媒体はろくなものではない
 2.印刷媒体を多角的に検証した結果、今でも優れた媒体である
 3.だから印刷媒体の役割は終わっていないし、これからも発展し続けるし、活字文化を守っていく必要がある
 といったものだ。

 通常なら、理想と現状とのギャップを埋める方策を検討し新たな金儲けの仕組みを作り苦境を乗り越える、といった考え方になるはずなのだが・・・恐らく出版業界でしか通用しない身勝手な考え方ではないだろうか。なぜこんな考え方(電子媒体叩き)になるかというと、電子媒体等により情報が無料化・低価格化されると、今まで構築してきたビジネスモデルが崩れるため出版業界にとって非常に都合が悪いためだ。「活字文化を守る」ということを大義名分として、なんとしても現行のビジネスモデルを正当化し維持していく必要がある。これでは既存の利権構造を維持しようと周囲の状況変化に抗う役人そのものではないか。出版業界は「権力批判はジャーナリズムの役割だ」と称しつつ、基本的な思考パターンの1つは批判対象である権力者と同じだったわけである。

 この考え方が極端とも言えるかたちで現れている好例がある。それが広島のローカル新聞「中国新聞」に連載されている「活字の底力」という企画である。ちなみに活字とは印刷媒体を指している。モニターに映し出されている文字は範疇に入らない(わかりにくい定義だが、中国新聞にその点は確認した)。この企画では例のごとく『とにかく印刷媒体は素晴らしい文化的財産である、それに比べて電子媒体は問題が多い』といわんばかりの主張をしている。この主張は、テレビの出現で映画が斜陽産業となったとき、映画人が「テレビには芸術性がない」と主張して改革を進めることが出来ず自滅していった構図に通ずると感じる。

 全体を通して読んでいただければわかることだが「活字の底力」の主張には無理がある。読んで感じる最大かつ根本的な疑問は、電子媒体で流れている情報をプリントアウトして印刷媒体にした瞬間、電子媒体にはない素晴らしいものに突然変化するのかという点である。この疑問に関する明確な回答は本文中で述べられていないが、「情報」と「印刷媒体」とを混同しているために回答しきれないのではないかと考えられる。また面白いことに、第5部では様々な識者に印刷媒体離れをくい止める方法を聞いているのだが、答えは第一部から第四部で述べられている主張を否定するようなものが多い。回を重ねるごとに、主張に歪みが出始めている。
 私が特に驚いたのは、【4】変わる大学 手書き復活、思考力鍛えるの巻だ。電子媒体はコピペができるため、レポートがコピペでつくられてしまうことで教育効果がなくなり問題だと書いている。確かにその通りだが、新聞こそ通信社が配信してきた記事をコピペして成り立っている存在ではないのか。コピペの是非に対してあれこれ言える立場なのかと。さすがにこの話には呆れ返り、私は新聞社に投書してしまった(南区の読者、というのが私)。







 「活字の底力」での主張が中国新聞社としての・出版業界としての統一見解とは思っていないのだが、現状の出版業界に蔓延する考え方の1つではある。このような考え方では、事実を淡々と伝えることは出来ても・物語の創作はできても、新しいものを作り上げることは困難だと考える。話が横道にそれるが、当HPで自動車雑誌社の対応に疑問を投げかけた上で役に立つ情報の発信を行い、我々がいかにあるべきか・またどのような結果を残してきたかといった自動車雑誌社が十分に取り組めていない視点でレポートを行ってるのは、こういう思いがベースにあるためだ。念のために言っておくと、「活字の底力」が思いの契機になったのではない。引用しやすいため、分かりやすい例として挙げている。

 
 このような考え方になってしまうもう1つの原因は創る側の意識の問題もあるのだろう。「有益な情報を展開する」という意識の元に出版しているのではなく、知らず知らずの間に「印刷物を製造している」という意識に変化したのではないか。「真価は内容である」、「(理想論だろうが)情報の内容で勝負する」という考え方の優先順位が高ければ、情報の伝達手段にこだわる必要はない。印刷媒体だろうが、電子媒体だろうがどうでもよいはずだ(現実にはそう言い切れないというのもわかるが)。情報の受け手にとっても、「安くて速くて便利で有益で正確な情報」ならば、媒体なんて何でも良いのである。
 にもかかわらず、一番危機感を感じるべき側が「活字文化を守る」といった大義名分をことさらに主張し、手段の変化にみあったカネ儲けの仕組み作りを検討せず、何の具体案も出さないまま「活字の底力を信じる」とお茶を濁しては問題の解決を先送し、「困った困った」と嘆き続ける。極端な話ではあるが合併するとか大手の傘下に入るとかいった考え方もない。「そこまで文句を言うのなら中国新聞を買うのをやめればいいじゃん」と思われるかもしれないが、カープとサンフレッチェの記事を詳細に書いている新聞は中国新聞だけなので、選択の余地がないのだ(爆)。とにかく今のやり方では印刷媒体が落ちるところまで落ちるのは目に見えているので、今まで蓄積した強みを生かしつつ出版以外の事業への進出するか、蓄積されてきた文才を生かし罵詈雑言に満ちあふれたネットの意見など取るに足らない物だ・さすがはプロだと皆に言わせしめるだけの素晴らしい記事を書くか、書き手の思いが伝わるよう手書き文字をそのまま画像化して電子媒体で配布するか、新たなカネ儲けの手段を創ることが重要だと考える(活字の底力の主張を押し通すなら、考え方を後者にシフトした上で具体案をどんどん出して改善度合いを検証する内容に修正すべき。現状では観念論ばかりで具体性が何もない。)。



 再度自動車出版業界に話をもどそう。多くの出版会社でも出版以外の金儲けのための取り組みを行っているが、webで何かを販売するに留まっているのが大半だ。そんな中でちょっと変わった取り組みをしているのが二玄社で、例えばCG CLUBミーティングを行ったり、最近の例では自動車文化検定(CAR検)もはじめた。しかしCG CLUBミーティングは読者とのコミュニケーションツールとしての位置づけが強く、ネコパブのように大儲けしてやろうといった魂胆は少ないように感じる。逆に自動車文化検定では、露骨なほど一儲けたくらんでいたのだが、蓋を開けてみるとビジネス的には大きなメリットがないようだ。第二回目のCAR検は一回目に比べて受験者数がぐっと下がって延べ受験者数が2000人強程度になってしまったし。だからこそネコパブの取り組みはより光って見える。今まで蓄積した強みを生かした上での新規事業進出だからだ。単純に計算して、3000円×5万人の入場で売り上げは1億5千万円にのぼる。仮にコースを2日占有したとしても2000万円でお釣りが来るだろう。となると手元に残るカネは1億円を超えるのではないか。それに対し、1冊700円の本が5万部売れたとしても、3千5百万円の売り上げにしかならない。3千5百万円と書くと大金のように感じられるが、1台100万円の軽自動車がたったの35台売れただけの金額にすぎない。そこから稿料や人件費や諸経費を差し引くと、いったいいくら手元に残るのか。いろいろリスクもあるだろうが、出版業界の取り組みを打破するやり方の1つとして個人的には大いに期待している。